化学・生物の融合問題で食の安全を考える!髪の毛から作る人毛醤油の都市伝説とは?

化学・生物の融合問題で食の安全を考える!髪の毛から作る人毛醤油の都市伝説とは? 理科
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 買い物帰りの高校2年生・幽美狐はとても幸せそうです。そんな幽美狐に中学2年生の狸雄が話しかけました。

狸雄
狸雄

幽美姉(ゆみねえ)、今日はとてもご機嫌だね。何かいいことでもあったの?

幽美狐
幽美狐

そうなの。スーパーの特売で醬油(しょうゆ)をとっても安く買えたの。

狸雄
狸雄

えっ、その醤油、本当に安全なの? 心配だなあ……。

 狸雄がまたよけいなことを言ったせいで、幽美狐と狸雄の議論が始まりました。2人の会話を通して、中学入試や高校入試の理科で出やすい問題を確認しましょう。

人毛醤油はどのように作られるの?

【問題】中学3年生の狸雄と高校2年生の幽美狐が、人毛醤油(しょうゆ)に関する都市伝説について話しています。この会話を読んで、後の問いに答えなさい。

幽美狐
幽美狐

私が買った醤油に何か問題があるってこと?

狸雄
狸雄

だって、とっても安かったんでしょ? 「安いものには訳がある」っていうじゃん。その醤油、①人間の髪の毛から作られてるんじゃない?

幽美狐
幽美狐

あんたは人毛醤油の都市伝説を心配してるのね。確かに中国で2004年1月、美容室や理容室、病院などから髪の毛を集め、それを工場で加工して醤油の原料にしてたことが報じられたわ。髪の毛には②水銀やヒ素が多く含まれてるだけでなく、ゴミも混入していて不衛生だったそうよ。その後、中国政府が人毛醤油の製造を禁止したけど、現在も人毛醤油が作られてるんですって。

狸雄
狸雄

どうやって髪の毛から醤油を作るの?

幽美狐
幽美狐

中国の工場でどういう作り方をしたのかははっきりしないけど、髪の毛から醤油を作る実験の動画がネットで観られるわ。その動画では、髪の毛に③塩酸を加え、④タンパク質を分解してアミノ酸に作った後、⑤水酸化ナトリウム水溶液で中和してた。

狸雄
狸雄

大豆から醤油を作るときは塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を使わないんだよね?

幽美狐
幽美狐

そうよ。市販の醤油は、蒸した大豆と炒(い)って砕いた小麦にこうじ菌を加えて⑦発酵(はっこう)させて作るわ。⑧微生物のはたらきに依存するから、醤油ができるまでには何か月もかかる。一方、人毛醤油は短時間で作れるメリットがあるわ。でも、日本ではコストの問題などもあって、人毛醤油は作られてないの。

狸雄
狸雄

人毛醤油じゃない醤油でも、原料の大豆が⑨遺伝子組換えだったら危ないよね?

幽美狐
幽美狐

もちろん遺伝子組換えのリスク(危険性)はあり得るわ。でも、市場に流通してる遺伝子組換えの大豆は、安全性が確認されたもので、食べても問題ないはず。ただ、あんたの言うように、普段よく使う醤油などの調味料の原材料をきちんと確認して、⑩食の安全について考えることはとても大切よ。

(1) 下線部①に関連して、プラスチックの下敷きで髪の毛をこすると、髪の毛が下敷きに引き寄せられます。これと同じ現象を利用した製品として誤っているものを次から1つ選び、記号で答えなさい。

 ア ライター  イ マッチ  ウ 空気清浄機  エ コピー機

(2) 下線部②の性質として誤っているものを次から1つ選び、記号で答えなさい。

 ア 25℃・1気圧の環境では液体である。
 イ 他の金属との合金がアマルガムである。
 ウ 蒸気は人体への毒性が強い。
 エ 体積の等しい鉄よりも軽い。

(3) 下線部③の水溶液に溶けている物質の名前を答えなさい。

(4) 下線部④に関連して、タンパク質を分解してアミノ酸を作るのに関係する消化液を次からすべて選び、記号で答えなさい。

 ア だ液  イ 胃液  ウ 胆汁  エ すい液  オ 腸液

(5) 下線部⑤に関連して、次の実験を行いました。

 ある濃度の塩酸(Xとする)を20gずつ入れた試験管A~Fがあります。それぞれの試験管に、ある濃度の水酸化ナトリウム水溶液(Y)を重さを変えて加えます。その後、加熱して水を蒸発させた結果、固体を得られました。加えたYの重さと得られた固体の重さは下の表の通りです。

試験管 A B C D E F
Yの重さ(g) 6 12 18 24 30 36
得られた固体の重さ(g) 0.22 0.44 0.66 0.86 1.01 1.16
  1. 試験管Aで得られた固体の正式な名前を答えなさい。
  2. 20gのXに15gのYを加えた後、加熱して水を蒸発させると、何gの固体を得られますか。
  3. 20gのXに50gのYを加えた後、加熱して水を蒸発させると、何gの固体を得られますか。

(6) 下線部⑥に関連して、もやしと枝豆と大豆は収穫時期が違うだけでどれも同じ植物です。

  1. もやしは白色で枝豆は緑色ですが、同じ植物なのに色が違う理由を説明しなさい。
  2. 枝豆は、食べられる部分100gあたり600μg(マイクログラム)以上のカロテンを含む野菜です。このような野菜を何といいますか。

(7) 下線部⑦に関連して、発酵食品を次からすべて選び、記号で答えなさい。

 ア チーズ  イ プリン  ウ サラミ  エ ステーキ  オ 味噌  カ 砂糖

(8) 下線部⑧の中でも、生物の死骸や排出物に含まれる有機物を取り入れている微生物を、生産者や消費者に対して何といいますか。

(9) 下線部⑨に関連して、次の各問いに答えなさい。

  1. 遺伝子の本体は何ですか。アルファベット3文字で答えなさい。
  2. 遺伝子組換えのリスクのうち、生物多様性に与える悪影響として考えられることを1つ挙げ、説明しなさい。

(10) 下線部⑩に関連して、魚介類には人体に有害なメチル水銀が含まれています。しかし、メチル水銀の含有量が0.3ppm以下の魚介類ならば、毎日食べ続けても健康には影響しないと考えられています。

  1. ppmは100万分の1を意味します。これを重さの単位で表すと、「1(A)あたり1(B)」です。(A)(B)のそれぞれにg、mg、kgのどれかを入れなさい。ただし、同じ単位を2回入れても構いません。
  2. メチル水銀の含有量が0.16ppmのビンナガマグロの肉400gには、何mgのメチル水銀が含まれていますか。
  3. 狸雄は、メチル水銀の含有量が0.54ppmのクロマグロの刺身250gを食べました。このとき狸雄の体内に入ったメチル水銀は、20週間後に何mgになりましたか。ただし、体内のメチル水銀は少しずつ排泄(はいせつ)され、70日で半分の量になります。

【問題】の【解答】は以下の通りです。基本的な知識問題がほとんどです。特に中学入試では、仕組みの異なる日用品を選ばせる(1)や、発酵食品を選ばせる(7)のような、常識を問う問題に要注意です。また、中和の実験に関する(5)と、メチル水銀の含有量に関する(10)は計算問題なので、苦手な受験生は解説で計算方法を確認してください。

【解答】(1) イ  (2) エ  (3) 塩化水素  (4) イ・エ・オ  (5) 1. 塩化ナトリウム 2. 0.55g 3. 1.51g  (6) 1.(例)もやしは光を当てずに育て、枝豆は光を当てて育てるから。 2. 緑黄色野菜  (7) ア・ウ・オ  (8) 分解者  (9) 1. DNA  2.(例)遺伝子組換えの生物が野生生物を育たなくして滅ぼすこと。(例)遺伝子組換えの生物が有害な物質を作って野生生物を減少させること。  (10) 1.(A)kg (B)mg 2. 0.064mg 3. 0.03375mg

 ちなみに幽美狐が言っていたのは以下の動画です。

問題の周辺知識や計算方法を解説

 問題の周辺知識や計算方法を解説します。

(1) 静電気を利用した製品

 プラスチックの下敷きで髪の毛をこすると、髪の毛が下敷きに引き寄せられます。この現象の原因は静電気です。静電気は、異なる2つの物質をこすり合わせたときに生じる電気です

 こすり合わせたそれぞれの物質は、+(プラス)の電気と-(マイナス)の電気を帯びます(帯電)。+の電気を帯びた物質と-の電気を帯びた物質の間には引き合う力がはたらきます。そのため、髪の毛が下敷きに引き寄せられます。

 静電気は日常生活でもよく見られます。たとえば、ドアノブに手を触れたら、バチッと音がして、手に痛みを感じることがあります。また、セーターを脱ぐときにバチバチと音がして、しかも火花が散ることもあります。これらはすべて静電気です。静電気を利用した製品にはライター・空気清浄機・コピー機などがあります。

 一方、マッチは、摩擦熱を利用して火をつける製品です。マッチ棒の頭をマッチ箱の茶色い部分にこすり付けると、側薬(そくやく)の赤リンがマッチ棒の頭に付着します。この赤リンが摩擦熱で燃え始めると、頭薬(とうやく)の硫黄なども燃えて、火がつきます。

化学・生物の融合問題で食の安全を考える!髪の毛から作る人毛醤油の都市伝説とは?

(2) 水銀の性質

 水銀の密度は約13.5g/cm3で、鉄の密度は約7.8g/cm3です。そのため、体積の等しい水銀と鉄を比べると、水銀の方が鉄よりも重くなります

(4) タンパク質を分解する消化液

 タンパク質だけでなく、炭水化物(デンプン)と脂肪を分解する消化液も整理して覚えましょう。ちなみに、胆汁(たんじゅう)には脂肪の消化・吸収を助ける働きがあり、この働きを乳化といいます

化学・生物の融合問題で食の安全を考える!髪の毛から作る人毛醤油の都市伝説とは?

(5) 中和実験で得られる固体の重さ

 中和実験の計算問題では差を求めましょう

 表から、Yの重さの差はいずれも6gです。一方、得られた固体の重さの差はA~Cで0.22g、C~Dで0.20g、D~Fで0.15gです。

2. 塩化ナトリウムの重さを求める

 A~Cでは、Yの重さが2倍、3倍になると、得られた固体の重さも2倍、3倍になっています(比例関係)。Yが完全に中和して、Xがあまっています。そして、比例関係が崩れるC~Dで、XとYが過不足なく中和したと考えられます。

 A~Cの液体を加熱して水を蒸発させると、塩化ナトリウム(食塩)の固体を得られます。あまったXに溶けている塩化水素は気体なので、水を蒸発させると空気中に出ていきます。

 Yの重さが6~18gでは比例計算ができます。したがって、Yの重さ:塩化ナトリウムの重さ=6:0.22=15:□より□=0.22×15÷6=0.55(g)が(1)の答えです。

3. 水酸化ナトリウムの固体の重さを求める

 D~Fでは、すべてのXが完全に中和して、Yがあまっています。そのため、D~Fの液体を加熱して水を蒸発させると、塩化ナトリウムの固体と、あまったYに溶けていた水酸化ナトリウムの固体を得られます。すべてのXが完全に中和しているので、塩化ナトリウムの固体はD~Fで同じ重さです。 

 DとFを比べて、Yの重さが6g増えると、得られた水酸化ナトリウムの重さが0.15g増えることがわかります。つまり、Y6gから得られる水酸化ナトリウムの固体は0.15gです。

 Y50gとFのY36gの差は14gです。したがって、Yの重さ:水酸化ナトリウムの重さ=6:0.15=14:△より△=0.15×14÷6=0.35(g)なので、これをFの1.16gに加えて1.51gが(2)の答えです。

(10) 魚介類に含まれるメチル水銀

 メチル水銀は水俣病の原因となった物質です。メチル水銀は神経系に障害を引き起こします。そのため、中毒患者は日常の動作が思うようにできなくなったり、視聴覚に異常をきたしたりします。

 また、メチル水銀には、胎盤を通して胎児に移行しやすい性質があります。妊婦は、メチル水銀を多く含むマグロ類などの魚介類を食べ過ぎないよう、注意が必要です。

1. ppmをgで表す

 問題文に書かれている通り、ppmは100万分の1を意味します。そのため、重さの単位をmgで統一すると、1ppmは「1000000mgあたり1mg」で表せます。1000000mgは1kgなので、1ppmは「1kgあたり1mg」です。

 また、ppmはμg/gで表されることもあります。1μg/gは「1gあたり1μg」という意味です。μg(マイクログラム)のμは100万分の1を表すSI接頭辞です。

2. メチル水銀の重さを求める

 1ppmは1kgあたり1mgなので、0.16ppmは1kgあたり0.16mgです。1kgは1000gなので、400gの肉に含まれるメチル水銀の重さは、0.16×\(\frac{400}{1000}\)=0.064(mg)です。

3. メチル水銀の半減期を考える

 2と同じように計算して、狸雄がクロマグロを食べた直後、狸雄の体内には0.54×\(\frac{250}{1000}\)=0.135(mg)のメチル水銀があります。体内のメチル水銀は70日で半分の量になるので、20週間(140日=70日×2)後には、半分の半分の0.135÷2÷2=0.03375(mg)になります。

 3からもわかる通り、体内のメチル水銀は1年で約3%の量まで減少します。しかし、量が半分になる期間(半減期)が70日と長いことから、体内に残りやすい有害物質といえます。

 また、生物の体内にメチル水銀がどんどん蓄積され、濃縮されていくことを生物濃縮といいます。食物連鎖の上位にいる生物(マグロ、サメ、イルカ、クジラなど)ほど、高濃度の蓄積が起こります。

身近な食品とその原材料にまつわる都市伝説

 人毛醤油のように、身近な食品が想定外の原材料でできているというのは、よくある都市伝説のパターンです。

 有名なのはミミズバーガーでしょう。話の大筋は次の通りです。

 ある人が某ハンバーガーショップでハンバーガーを食べようとしたら、中にミミズが入っているのに気づきます。このことで店員にクレームを入れると、奥の部屋に案内され、口止め料として大金をもらいました。某ハンバーガーショップでは、ハンバーガーに食用ミミズが使っていますが、たまにバレることがあります。

 ミミズバーガーの都市伝説は1970年代に広まりましたが、ほぼ同じように話が展開する猫肉バーガーの噂がその前からあったそうです。また、アメリカでもミミズバーガーが話題となった時期があります。現実的な話として、牛肉より高価な食用ミミズを使用することはコスト面からあり得ないと考えられます。

 遺伝子組換えも絡む都市伝説には、「某フライドチキンチェーンのフライドチキンには、遺伝子組換えで生み出された四本足(三本足)のニワトリが使われている」というものがあります。これは一般的に否定される一方、羽無しニワトリは実在します。もっとも、羽無しニワトリは遺伝子組換えではなく、異種交配によって誕生しました。イスラエルの科学者による研究成果ですが、動物愛護団体から抗議が殺到しました。

 こうした都市伝説の根底にあるのは、「安いものには訳がある」という疑念や不信です。また、食品偽装や異物混入、食中毒など、食の安全を脅かすニュースが日々報道されるため、これらがフィクションの元ネタになることもあるでしょう。いずれにしても、人毛醤油やミミズバーガーのような噂と、食の安全に対する人々の関心は表裏一体なのではないでしょうか。

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