芥川龍之介「鬼ごつこ」を読む!彼女の「妙に真剣な顔」から推測できる気持ちは?

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 小説(物語文)の読解問題は、本文にはっきりと書かれていない登場人物の心情(気持ち)を推測する必要があります。この推測を苦手とする受験生の練習のために、今回は芥川龍之介「鬼ごつこ」を題材とした問題を用意しました。

 幼い頃に鬼ごっこをしていた男女が大人になって再会したら――。「彼」と「彼女」の心情が鬼ごっことどう結びつくのかを考えてみてください。

「鬼ごつこ」というタイトルの意味は?

 次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 彼はある町の裏に年下の彼女と鬼ごっこをしていた。まだあたりは明るいものの、ちょうど町角の街灯にはガスのともる時分だった。
「ここまで来い。」
 彼は楽々と逃げながら、鬼になって来る彼女を振りかえった。彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追いかけて来た。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしているなと思った。
 その顔はかなり長い間、彼の心に残っていた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすっかり消えてしまった。
 それから二十年ばかりたった後、彼は雪国の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合った。窓の外が暗くなるのにつれ、しめった靴や外套のにおいが急に身にしみる時分だった。
「しばらくでしたね。」
 彼は巻煙草をくわえながら、ふと彼女の顔へ目を注いだ。近頃夫を失った彼女は熱心に彼女の両親や兄弟のことを話していた。彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしているなと思った。と同時に①いつの間にか十二歳の少年の心になっていた
 彼らは今は結婚してある郊外に家を持っている。が、②彼はその時以来、妙に真剣な彼女の顔を一度も目のあたりに見たことはなかった

問一 下線部①「いつの間にか十二歳の少年の心になっていた」とありますが、「彼」がこのようになったのはなぜだと考えられますか。六十字以内で説明しなさい。

問二 下線部②「彼はその時以来、妙に真剣な彼女の顔を一度も目のあたりに見たことはなかった」とありますが、「彼女」が妙に真剣な顔をしなくなったのはなぜだと考えられますか。四十字以内で説明しなさい。

 この問題の本文は芥川龍之介の短編「鬼ごつこ」ですが、小中学生でも読みやすいように、旧仮名遣いを新仮名遣いに改めたり、難しい漢字をひらがな表記にしたりしました。また、一部省略した部分もあります。原文を読みたい場合は青空文庫で無料で読めます。

 さて、「鬼ごつこ」というタイトルにはどのような意味があるのでしょうか?

「彼」は、鬼として追いかけてくる「彼女」が「妙に真剣な顔をしているな」と思います。「彼女」は鬼ごっこに夢中で、何とかして「彼」を捕まえようと一生懸命なのでしょう。

 しかし、「彼女」は鬼ごっこに夢中になっているだけでしょうか?

 2人は大人になってから再会します。このときも、「彼」は「彼女」が「妙に真剣な顔をしているな」と思います。そして、2人は結婚します。

 この結末から、「彼女」は「彼」に対して好意を抱いていて、それが「妙に真剣な顔」に現れていたと解釈できます。鬼ごっこのときに「彼女」が「妙に真剣な顔」をしていたのは、「彼女」が幼い頃から「彼」を好きだったからです。 

「鬼ごつこ」というタイトルは、「彼女」の人生が鬼ごっこのようなものだったという意味だと考えられます。「彼女」は最終的に、鬼として追いかけていた「彼」を捕まえることに成功したのです。

彼が十二歳の少年の心になったのはなぜか?

 問一を解説します。

 下線部①の前に「と同時に」とあるので、直前の文もチェックします。直前の文には「妙に真剣な顔をしているな」とありますが、「彼女」の「妙に真剣な顔」については上で解説した通りです。

 一方、前の方で「その顔(=妙に真剣な顔)はかなり長い間、彼の心に残っていた」と書かれているため、「彼」も「彼女」を好きだったと推測できます。しかし、「彼」の「彼女」への好意は、「年月の流れるのにつれ、いつかすっかり消えてしま」いました。

 そんな「彼」は、最終的に「彼女」と結婚していることから、再会した「彼女」の「妙に真剣な顔」を見て、幼い頃に抱いていた「彼女」に対する好意を思い出したのでしょう。それが「十二歳の少年の心」と表現されていると考えられます。

(問一の解答例)彼女の妙に真剣な顔を見て、彼女の自分に対する好意が変わっていないことを知り、自分も彼女を好きだったことを思い出したから。(60字)

彼女が妙に真剣な顔をしなくなったのはなぜか?

 問二を解説します。

「彼女」が妙に真剣な顔をしなくなったのは、「彼」に対する好意が失せたからかもしれません。しかし、この文章だけだと、そこまで言い切っていいのかどうかはわかりません。

 ただ、「彼女」の好意に含まれていた強い思いが一部失われたのは確かです。その思いとは何でしょうか?

「彼女」が鬼ごっこの鬼だったことから、「彼女」は「彼」を捕まえたいと強く思っていたはずです。これを恋愛で考えると、「捕まえたい=一緒になりたい」と考えられます。そして、この思いは結婚によって実現し、消えてしまったのでしょう。

(問二の解答例)彼と結婚したことで、彼と一緒になりたいという強い思いが消えてしまったから。(37字)

「鬼ごつこ」に女の執念を感じないか?

「鬼ごつこ」は、「彼女」の恋が成就するハッピーエンドの話です。一方で、「彼女」が二十年以上も「彼」を思い続けていたところに女の執念を感じて、男であるみみずくはゾッとさせられました。

 男を強く愛し続けた女が鬼や幽霊などの化け物になる話は少なくありません。そういうホラーを連想させる作品として、「鬼ごつこ」を当サイトで問題として使わせてもらいました。

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