陶淵明『桃花源記』のテスト対策問題!「桃源郷」の物語からユートピア思想を考える

陶淵明『桃花源記』のテスト対策問題!「桃源郷」の物語からユートピア思想を考える 古典
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 俗世を離れた平和な理想郷を「桃源郷(とうげんきょう)」といいます。

 16世紀のイギリスでは、思想家のトマス・モアが著書『ユートピア』を出版し、その中で完璧な社会主義国家を描きました。また、古今東西の宗教では、生前の善行を評価された者が死後に住む場所として、苦しみのない天国や極楽などが語り継がれてきました。近年、AI(人工知能)による管理社会がユートピアと考えられることもあります。

 これらの理想郷とは異なるのが桃源郷です。その元ネタは、4~5世紀に活躍した文学者、陶淵明(とうえんめい)の創作物『桃花源記(とうかげんのき)』です。

 今回は、高校の定期テストでしばしば出題される『桃花源記』を解説します。高校生の皆さんは、漢文を勉強しながら、「理想郷とは何なのか?」を考えましょう。

陶淵明『桃花源記』のテスト対策問題!「桃源郷」の物語からユートピア思想を考える

桃源郷のイメージ(画像はイラストACより)

  1. 猟師が不思議な桃の林にたどり着く
    1. 1. 漢字の読みと意味を答える問題
    2. 2. 現代語訳する問題
    3. 3. 熟語の意味を答える問題
    4. 4. 指示語の内容を答える問題
    5. 5. 白文に返り点を施す問題
    6. 書き下し文と現代語訳
  2. 穴を抜けた先に広がる平和な世界
    1. 1. 漢字の読みを答える問題
    2. 2.1. 熟語の意味を答える問題
    3. 2.2. 句法に関する問題
    4. 2.3. 白文を書き下し文にする問題
    5. 3. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
    6. 4. 熟語の意味を答える問題
    7. 書き下し文と現代語訳
  3. 外とは隔絶された村人たちの話
    1. 1. 漢字の読みを答える問題
    2. 2. 白文に返り点を施す問題
    3. 3. 指示語の内容を答える問題
    4. 4. 現代語訳する問題
    5. 5. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
    6. 6. 白文に訓点を施す問題
    7. 7. 意味をわかりやすく説明する問題
    8. 8. 同じ意味の漢字を抜き出す問題
    9. 9.1. 白文を書き下し文にする問題
    10. 9.2. 現代語訳する問題
    11. 9.3. 理由を説明する問題
  4. 桃源郷には二度とたどり着けなかった
    1. 1. 漢字の読みを答える問題
    2. 2. 意味をわかりやすく説明する問題
    3. 3.1. 白文に訓点を施す問題
    4. 3.2. 指示語の内容を明らかにして現代語訳する問題
    5. 4. 漢字を並べかえる問題
    6. 5. 指示語の内容を答える問題
    7. 6. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
    8. 7. 白文に返り点を施す問題
    9. 8. 作者名を答える問題
    10. 9. 本文をもとにした話し合いの問題
    11. 書き下し文と現代語訳

猟師が不思議な桃の林にたどり着く

【問題1】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 晉太元中、武陵人、捕魚為業。緣溪行、①忘路之遠近A逢桃花林。夾岸数百步、中無②雜樹、芳草鮮美、落英繽紛。漁人B異③C前行、④欲窮其林。林尽水源、D便得一山。 

問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。また、それぞれの意味も答えなさい。

問2. 下線部①をわかりやすく現代語訳しなさい。

問3. 下線部②の意味を答えなさい。

問4. 下線部③の内容を五十字以内で説明しなさい。

問5. 下線部④は「其の林を窮めんと欲す」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。

 船で川を進んでいた漁師は、船で川を進んでいるうちに、美しい桃の林を見つけました。その林の奥には山がありました。

1. 漢字の読みと意味を答える問題

 問1の答えは「A(読み)たちまち (意味)急に B(読み)はなはだ(意味)たいそう C(読み)また(意味)さらに D(読み)すなわち(意味)すぐに」です。

 Aの「忽ち」は「たちまち」と読み、「急に・突然」を意味します。思いがけなくある自体が発生するさまを表します。同義語の「俄(にわ)かに」も一緒に覚えましょう。

 Bの「甚だ」は「はなはだ」と読み、「たいそう」「非常に」を意味します。普通の程度をはるかに超えているさまを表します。

 Cの「復た」は「また」と読み、「ふたたび」を意味します。「また」と読む漢字には「亦」「復」「又」の3種類あるので、それぞれの違いを覚えましょう。

漢字 意味 例文
やはり 別の人が同じ動作を行う 私は走った。、彼も走った。
ふたたび 同じ人が同じ動作を行う 私は走った。その後、復た走った。
さらに 同じ人が別の動作を行う 私は走った。、歌った。
幽美狐
幽美狐

私は「モマタ・マタマタ・サラマタ」という呪文を教えられたわ。「も亦・また復・さら又」という意味ね。

 Dの「便ち」は「すなわち」と読み、「すぐに」を意味します。歴史的仮名遣いでは「すなち」と表記します。「すなわち」と読む漢字には以下のものがあるので、それぞれの違いを覚えましょう。

即・便=すぐに、則=(訳さなくてOK)、乃=そこで、輒=そのたびごとに

2. 現代語訳する問題

 問2の答えは「(例)どれほどの道のりまで来たのかがわからなくなってしまった」です。「路の遠近を忘る」を直訳すれば「道のりが遠いのか近いのかを忘れた」です。つまり、自分がどのくらいの道のりを進んだのかがわからなくなったことを表します。

3. 熟語の意味を答える問題

 問3の答えは「(例)桃以外の木」です。「雑樹」は「いろいろな木」という意味です。ここでは、桃の木以外の木々を表します。

4. 指示語の内容を答える問題

 問4の答えは「(例)香りが良くて美しい桃の木だけが川の両側に並び、花びらが乱れ散っている場所に偶然たどり着いたこと。」です。直前の「忽逢桃花林~落英繽紛。」をまとめましょう。テスト対策としては、学校で習った通りに答えることが大切です。

5. 白文に返り点を施す問題

 問5の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。

  • 欲 … 左下にレ点
  • 窮 … 左下に二点
  • 林 … 左下に一点

 返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。

「欲A」は願望を表し、「Aんと欲す」と書き下します。「ん」は意志の助動詞「ん」の終止形なので、Aは未然形の活用語です。「Aしようとする」「Aしたいと思う」と訳します。

書き下し文と現代語訳

【書き下し文】晋の太元中、武陵の人魚を捕らふるを業と為す。渓に緣りて行き、路の遠近を忘る。忽ち桃花の林に逢ふ。岸を夾むこと数百步、中に雑樹無し、芳草鮮美、落英繽紛たり。漁人甚だ之を異とし、復た前行きて、其の林を窮めんと欲す。林水源に尽き、便ち一山を得たり。
【現代語訳】晋(しん)の太元(たいげん)年間に、武陵(ぶりょう)の人で、魚を捕ることを生業にしている人がいた。(ある日、)谷川に沿って(船で)行くうちに、どれほどの道のりまで来たのかがわからなくなってしまった。思いがけなく急に、桃の花が咲いている林に出会った。川の両側に数百歩の間、中には桃以外の木はない。香りの良い草が鮮やかで美しく、(桃の)花びらが乱れ散っている。漁師はこれをたいそう不思議に思い、ふたたび先に進んで、その林の奥を見極めようとした。林は川の水源で終わり、すぐに一つの山を見つけた。

穴を抜けた先に広がる平和な世界

【問題2】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 山有小口、①髣髴若有光A便捨船、B口入。初極狹、②纔通人C行数十步、豁然開朗。土地平曠、屋舍儼然。有良田・美池・桑竹之属。阡陌交通、鷄犬相聞。其中往来種作男女衣著、D如外人。③黄髮垂髫、並怡然自樂。

問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。

問2. 下線部①について、次の各問いに答えなさい。

  1. 「髣髴」の意味を答えなさい。
  2. 「若」と同じ意味の漢字を本文中から抜き出しなさい。
  3. 「若有光」を書き下しなさい。

問2. 下線部②をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。

問3. 下線部③の「黄髮」と「垂髫」の意味をそれぞれ答えなさい。

 漁師は山の穴を進んでいくと、広くて明るい場所に出ました。そこにいる人々はとても楽しそうです。

1. 漢字の読みを答える問題

 問1の答えは「A すなわち B より C また D ことごとく」です。

 Bの「従」を「より」と読む場合、「より」は助詞なのでひらがなで書き下します。助詞の「より」と読む他の漢字には「自」「由」があります。

 Dの「悉」は「ことごとく」と読み、「すべて」「みな」を意味します。同じ意味の熟語で「悉皆(しっかい)」を覚えておきましょう。

2.1. 熟語の意味を答える問題

 問2の1の答えは「かすかに・ぼんやりと」です。

 形容詞「髣髴(ほうふつ)たり」は、今回のように「かすかに・ぼんやりと」という意味の他、「ありありと想像するさま」を表すこともあります。「彷彿」も同じ読み・意味の熟語です。

2.2. 句法に関する問題

 問2の2の答えは「」です。下線部Dの直後の一字を抜き出しましょう。

 問2の2の「若」「如」はどちらも「ごとし」と読みます「ごとし」は比況・例示の助動詞なのでひらがなで書き下します。意味は「~のようだ」です。

2.3. 白文を書き下し文にする問題

 問2の3の答えは「光有るがごとし」です。「ごとし」は比況・例示の助動詞なのでひらがなで書き下します

3. 白文をひらがなの書き下し文にする問題

 問3の答えは「わずかにひとをつうずるのみ」です。

「纔(わづかに)」は限定の句法で、「纔かに~のみ」と送り仮名を付けます。意味は「ただ~だけだ」です。「のみ」には体言や活用語の連体形などが接続します。そのため、「通」は連体形の「通(つう)ずる」とします。

 また、「通人」は「人」が目的語なので、「人」ではなく、「人」としましょう。

4. 熟語の意味を答える問題

 問4の答えは「(黄髮)髪の黄色くなった老人 (垂髫)おさげ髪の子供」です。

書き下し文と現代語訳

【書き下し文】山に小口有り、髣髴として光有るがごとし。便ち船を捨てて口より入る。初めは極めて狭く、纔かに人を通ずるのみ。復た行くこと数十步、豁然として開朗なり。 土地平曠、屋舎儼然たり。良田・美池・桑竹の属有り。阡陌交通じ、鶏犬相聞こゆ。其の中に往来種作する男女の衣着は悉く外人のごとし。黄髪垂髫、並びに怡然として自ら楽しむ。
【現代語訳】山に小さな穴があり、(奥の方から)かすかに光が差しているようだった。すぐに船を乗り捨てて、穴から中に入った。初めは非常に狭く、人がかろうじて通れるだけだった。さらに数十歩進むと、広々として明るいところに出た。土地は平らで広く、家屋は整然と並んでいる。よく手入れされた田・美しい池・桑や竹のたぐいがある。田のあぜ道が縦横に通じ、鶏や犬の鳴き声があちこちから聞こえてくる。その中を往来して種をまき耕作している男女の衣服はすべて異国の人のようであった。髪の黄色くなった老人や、おさげ髪の子供が、全員和やかに楽しんでいる。

外とは隔絶された村人たちの話

【問題3】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 見漁人、A大驚、①問所従來B答之。C便要還家、設酒殺鷄作食。村中聞有②此人、咸来問訊。自云、「先世避秦時乱、率妻子・邑人、来此絶境、③不復出焉D与外人間隔。」問、「④今是何世。」乃⑤不知有漢、⑥無論魏晋。此人一一為具言所聞。⑦歎惋。余人E復延至其家、皆出酒食。停数日、辞去。此中人語云、「⑧不足為外人道也。」

問1. 下線部A~Eの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。

問2. 下線部①は「従りて来たる所を問ふ」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。

問3. 下線部②を具体的に表す語を本文中から抜き出しなさい。

問4. 下線部③を現代語訳しなさい。

問5. 下線部④をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。

問6. 下線部⑤は「漢があったことを知らず」と訳します。この訳に従って訓点を施しなさい。

問7. 下線部⑥の意味をわかりやすく説明しなさい。

問8. 下線部⑧と同じ意味の漢字を本文中から抜き出しなさい。

問9. 下線部⑧について、次の各問いに答えなさい。

  1. 書き下しなさい。
  2. わかりやすく現代語訳しなさい。
  3. 村人がこのように言った理由を四十字以内で説明しなさい。

 漁師は村人たちから歓迎され、村に関する話を聞く一方で、自分が知っていることを伝えました。漁師がたどり着いた村は外から隔絶していることが明らかとなります。

1. 漢字の読みを答える問題

 問1の答えは「A すなわち B つぶさに C すなわち D ついに E おのおの」です。

 Bの「具」は「つぶさに」と読み、「くわしく」を意味します。同じ意味の「つまびらかに」は「詳らかに」「審らかに」と漢字表記するので、一緒に覚えましょう。

 Dの「遂」は「ついに」と読み、「結局・とうとう」を意味します。他に「ついに」と読む漢字に「終」「竟」があります。

 Eの「各」は「おのおの」と読み、「それぞれ」を意味します

2. 白文に返り点を施す問題

 問2の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。

  • 問 … 左下にレ点
  • 所 … 左下に二点
  • 來 … 左下に一点

 返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。

3. 指示語の内容を答える問題

 問3の答えは「漁人」です。本文の冒頭から抜き出します。

4. 現代語訳する問題

 問4の答えは「二度とは外に出なかった」です。

「不復~」は「復(ま)た~ず」と書き下し、「(少なくとも一度は~したことがあるが)二度とは~しない」という意味の部分否定を表します。「復不~」も「復た~ず」と書き下しますが、こちらは「一度も~しない」という全部否定です。「不復~」と「復不~」は意味が異なるので注意しましょう。

 また、「焉」は置き字なので、書き下し文に書かず、訳すこともありません

幽美狐
幽美狐

たとえば、「そのお店に行って、不愉快な思いをさせられたから、もう二度と行かない」という場合は「不復行其店」だけど、「そのお店は怪しいから、一度も行ったことがない」という場合は「復不行其店」よ。

5. 白文をひらがなの書き下し文にする問題

 問5の答えは「いまはこれいずれのよぞ」です。「何」は歴史的仮名遣いで「いれ」ですが、現代仮名遣いでは「いれ」になります。

6. 白文に訓点を施す問題

 問6の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。

  • 不 … 左下にレ点
  • 知 … 右下に「ラ」、左下にレ点
  • 有 … 右下に「ルヲ」、左下にレ点

 助動詞「ず」は「不」のひらがな表記なので、送り仮名にはなりません。

7. 意味をわかりやすく説明する問題

 問7の答えは「(例)村人が魏や晋を知らないのは言うまでもない」です。

「無論(論無し)」は「言うまでもない」という意味ですが、「どのようなことが言うまでもないのか?」を書く必要があります。村人は秦の時代に村に逃げて来て、二度と外に出なかったため、秦の後の王朝である漢を知りませんでした。そうであれば、漢の後の王朝である魏や晋を知らないのは当然だと考えられます。

8. 同じ意味の漢字を抜き出す問題

 問8の答えは「」です。「咸」を「みな」と読む場合、「皆」と同じ意味になります。下線部②の直後から抜き出しましょう。

9.1. 白文を書き下し文にする問題

 問9の1の答えは「外人の為に道ふに足らざるなり」です。

「道」には「いう(言う)」の意味があります。「報道」の「道」が「いう」の意味です。

「也」は置き字として読まない場合もありますが、今回は教科書に準拠して助動詞「なり」としてひらがな表記します。「なり」は連体形接続なので、「不」は打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」になります

9.2. 現代語訳する問題

 問9の2の答えは「(例)この村について外の人たちには言うほどのことではありませんので、言わないでください」です。

 問題文に「わかりやすく」という指示があるので、「何を言うのか?」「『言うほどのことではない』とはどういう意味か?」を考えて言葉を補いましょう。

9.3. 理由を説明する問題

 問9の3の答えは「(例)外の人に村の存在を知られることで、現在の平穏な生活を乱されたくないから。」です。

 下線部⑧から「外の人に村の存在を知られたくない」ことがわかります。さらに、その理由を本文に即して考えます。そもそもこの村は、戦乱を避けたい人々が集ってできた村です。つまり、村人たちは平穏な生活を望んでいると考えられます。これらを字数内にまとめましょう。

【書き下し文】漁人を見て、乃ち大いに驚き、従りて来たる所を問ふ。具に之に答ふ、便ち要して家に還り、酒を設け鶏を殺して食を作る。村中此の人有るを聞き、咸来たりて問訊す。自ら云ふ、「先世秦時の乱を避け、妻子・邑人を率ゐて、此の絶境に来たり、復た出でず。遂に外人と間隔す」と。問ふ、「今は是れ何れの世ぞ」と、乃ち漢有るを知らず、魏・晋に論無し。此の人一一為に具に聞く所を言ふ。皆歎惋す。余人各々復た延きて其の家に至り、皆酒食を出だす。停まること数日にして、辞去す。此の中の人語げて言ふ、「外人の為に道ふに足らざるなり。」と。
【現代語訳】(村人は)漁師を見て非常に驚いて、どこから来たのかと尋ねた。(漁師は)詳しくこれに答えた。(村人は)すぐにぜひにと(漁師を)家に連れ帰り、酒を出して鶏を殺して食事を作った。 村中がこの人がいることを聞いて、皆やって来て(漁師に)話を聞いてきた。(村人が)自ら言うには、「先祖は秦の時代の戦乱を避けて、妻子や村人を引き連れて、この隔絶した地にやって来て、二度とは外に出ませんでした。そのまま外とは隔たってしまいました。」と。 (村人が)質問するには、「今はいったい何という時代なのですか。」と。なんと(村人は)漢があったことを知らず、魏や晋(を知らないの)は言うまでもない。この人(漁師)は一つ一つ詳しく(自分が)聞き知っていることを説明した。 皆驚いてため息をついた。他の村人たちもそれぞれさらに漁師を案内して自分の家に招き、酒や食事を出した。 (漁師は)数日間とどまった後、別れを告げた。この村の中の人が語って言うには、「外の人たちには言うほどのことではありません(ので、言わないでください)。」と。

桃源郷には二度とたどり着けなかった

【問題4】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。

 既出、得其船、A便扶向路、①処処誌之。及郡下詣太守、説B如此。②太守即遣人隨其往。尋向所誌、C迷、(X)。南陽劉子驥、高尚士也。聞③、欣然規往。④未果D病終。後遂⑤無問津者

問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。

問2. 下線部①の意味をわかりやすく説明しなさい。

問3. 下線部②について、次の各問いに答えなさい。

  1. 訓点を施しなさい。
  2. 「其」の内容を明らかにして現代語訳しなさい。

問4. (X)には「二度と道を見つけられなかった」という意味の白文が入ります。この意味に従って「復・路・得・不」の四字を並べ替えなさい。

問5. 下線部③の内容を四十字以内で説明しなさい。

問6. 下線部④をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。

問7. 下線部⑤は「津を問ふ者無し」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。

問8. 本文の作者名を答えなさい。

問9. 高校生の3人は、『桃花源記』で描かれる村について話し合いました。【問題1】から【問題4】の本文をもとにして述べられた意見として、適切でないものを次の中から2つ選び、記号で答えなさい。

霧斗
霧斗

ア 外の世界とは隔絶した村だから、村人たちは田を耕したり、鶏を飼ったりして、自給自足の生活をしているみたいだ。

舞理
舞理

イ 村人たちが漁師の話を聞きたがったのは、外の世界に興味があって、いつか村を出たいと考えているからだと思うの。

幽美狐
幽美狐

ウ 村人全員が村の現状に満足していることは、子供から老人まで楽しそうにしている様子からもよくわかるわね。

霧斗
霧斗

エ 村人たちは、戦乱を避けて平和に暮らしたいという先祖の思いを受け継いで、この先もずっと同じ生活を続けていくんだろうな。

舞理
舞理

オ 漁師は偶然村にたどり着いたけれど、何らかの目的を持って村を探しても、絶対にたどり着けないのよ。

幽美狐
幽美狐

カ 劉子驥のような志の高い人が諦めずに探し続ければ、いつか村を訪れて、村人たちから歓迎されるでしょうね。

 村を出た漁師は、村人との約束を破って、村の存在を太守に報告しました。しかし、村にたどり着いた者は誰もいませんでした。

1. 漢字の読みを答える問題

 問1の答えは「A すなわち B かくのごとし C ついに D ついで」です。

 Bの「如此」について、「如」が比況・例示の助動詞なので、「ごとし」とひらがなで書き下します「此くのごとし」で「このようである」という意味です

 Dの「尋」は「ついで」と読み、「それから間もなく・引き続いて」を意味します。「ついで」の漢字表記は他に「次いで」があります。下線部②の「尋向所誌」の「尋」は「たずねる」という意味なので、Dの「尋」と区別しましょう。

2. 意味をわかりやすく説明する問題

 問2の答えは「(例)もと来た道のところどころに、村までの道順がわかるように目印をつけた」です。

「処処」は「ところどころ」という意味です。具体的にどこなのかを明らかにしましょう。

「誌之」の「誌」は「しるす」と読み、ここでは「印す=目印をつける」の意味です。「之」の具体的な内容を明らかにしましょう。

3.1. 白文に訓点を施す問題

 問3の1の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。

  • 即 … 右下に「チ」
  • 遣 … 右下に「ム」、左下に二点
  • 人 … 右下に「ヲシテ」
  • 隨 … 右下に「ヒテ」、左下にレ点
  • 其 … 右下に「レニ」
  • 往 … 右下に「カ」、左下に一点

「遣AB」は使役の句法で、「AをしてBしむ」と書き下します。「しむ」は助動詞なのでひらがな表記です。また、「しむ」を表す漢字には「使・令・教・遣・俾」があります。「しむ」が未然形接続なので、Bは活用語の未然形です。意味は「AにBさせる」です。「ABさせる」ではないので注意しましょう。

 教科書によって訓点の施し方が異なることがあります。テスト対策としては、教科書通りに覚えてください

3.2. 指示語の内容を明らかにして現代語訳する問題

 問3の2の答えは「(例)太守はすぐ人に漁師の後をついて行かせた」です。

「太守」が主語なので「太守は」とします。「即」は「すぐに」という意味です。

「遣人隨其往」が使役なので「人~行かた」と訳します。「其」が「漁師」であることを明らかにしましょう。

4. 漢字を並べかえる問題

 問4の答えは「不復得路」です。

「二度と~しなかった」は部分否定なので、「不復~」の形を作ります。さらに、「道を見つける」という意味にするには、「路」が「得」の目的語になるので、「得路」の語順です。

5. 指示語の内容を答える問題

 問5の答えは「(例)太守が漁師の報告を受けて村を探させたが、村への道を見つけられなかったという話。」です。直前の「及郡下~(X)」の内容を指定字数内にまとめましょう。

6. 白文をひらがなの書き下し文にする問題

 問6の答えは「いまだはたさず」です。

「未」は再読文字で、「いまだ~ず」と読みます。打消の助動詞「ず」は未然形接続なので、「果」は未然形の「果たさ」とします。

7. 白文に返り点を施す問題

 問7の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。

  • 無 … 左下に二点
  • 問 … 左下にレ点
  • 者 … 左下に一点

 返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。

8. 作者名を答える問題

 問8の答えは「陶淵明(とうえんめい)」もしくは「陶潜(とうせん)」です。

9. 本文をもとにした話し合いの問題

 問9の答えはイ・カです。

 生徒たちが本文をもとに話し合いをするという設定で、本文内容や、本文から推測できることの正誤を判断する問題が出ることがあります。本文の記述と照らし合わせて解きましょう。

 イの「(村人たちが)いつか村を出たいと考えている」という記述は本文にありません。また、村人が「外の人に村の存在を教えないでほしい」と言っている(【問題3】問9)ことから、外の世界との関係を拒絶していることがわかります。

 オとカは矛盾する内容なので、どちらかが誤りです。【問題4】で、劉子驥も村に行けなかったことを確認できれば、カが誤りだと判断できます。

書き下し文と現代語訳

【書き下し文】既に出でて、其の船を得て、便ち向の路に扶り、処処に之を誌す。郡下に及び、太守に詣りて、説くこと此くのごとし。太守即ち人をして其れに随ひて往かしむ。向に誌しし所を尋ねしむるに、遂に迷ひて、復た路を得ず。南陽の劉子驥は、高尚の士なり。之を聞き、欣然として往くを規る。未だ果たさず。尋いで病みて終る。後遂に津を問ふ者無し。
【現代語訳】(漁師は)既に(村を)出て、自分の船を見つけ、すぐにもと来た道をたどって、ところどころに目印をつけた。郡の役所のある町に行き、太守(たいしゅ)のもとに参上し、このようなことがあったと報告した。太守はすぐ人に彼(漁師)の後をついて行かせた。先ほど目印をつけておいた所を探させたが、とうとう迷ってしまい、二度と(村への)道を見つけられなかった。南陽の劉子驥(りゅうしき)は、志の高い人だ。この話を聞き、喜んで(村に)行こうと計画した。まだ実行しなかった。それから間もなく病気で死んでしまった。それから後はとうとう(漁師が船を停めた)船着き場を探す者はいなくなった。
狸雄
狸雄

日本の隠れ里(かくれざと)も、『桃花源記』とほとんど同じ言い伝えだよね。

幽美狐
幽美狐

山で迷った猟師は隠れ里に偶然たどり着き、住人から歓迎されて幸せな日々を送った。帰宅後、再び隠れ里を訪ねようと思っても、隠れ里を見つけられなかった。確かに『桃花源記』そっくりだわ。平家の落人(おちうど)伝説とも混ざって、いかにもリアルな設定で語られることもあるわ。

狸雄
狸雄

民俗学者・柳田國男の『遠野物語』で迷い家(まよいが)の話を読んだことがあるよ。迷い家は山の中にある幻の家で、そこを訪れた人に経済的な豊かさをもたらすんだって。これも隠れ里の一種だよね。おいらも隠れ里に住みたいなあ。

幽美狐
幽美狐

隠れ里は、来訪者には至れり尽くせりだけど、住むとなったら普通に働かなきゃいけないんじゃないの? 『桃花源記』でも、耕作してる男女の姿が描かれてるわ。神様が永遠に何でも与えてくれる天国とは違うのよ。

狸雄
狸雄

働くのは嫌だなあ。おいら、三食昼寝付きでゴロゴロしていたいんだよね。働いたら負けだと思うんだ。

幽美狐
幽美狐

あんたの考えは自宅警備員(ニート)と同じだわ。気持ちはわからなくもないけど、働かないことが本当に幸せなのかしら?

狸雄
狸雄

幸せに決まってるよ!

幽美狐
幽美狐

ふーん……。ところで、1960~1972年に動物行動学者のジョン・B・カルホーンが行った「UNIVERSE25(ユニバース25)」という実験を知ってる?

狸雄
狸雄

どんな実験なの?

幽美狐
幽美狐

簡単に言うと、ネズミを楽園で飼育する実験ね。この楽園には、安全な住居があって、水も食料も無限に与えられ、病気や天敵からも守ってもらえるの。ネズミにとっては何不自由ない快適な空間ってわけ。

狸雄
狸雄

うわあ、うらやましい! ネズミたちはニートになっちゃうじゃん!

幽美狐
幽美狐

そうよ。ニートになったネズミたちは争わなくなったんだけど、子作りもしなくなるの。だから、高齢化が進んで、最後には全滅。詳しくはwebムーで確認してね。

狸雄
狸雄

う~ん、ネズミの楽園は、ユートピアどころかディズニーランド……じゃなくて、ディストピアだったのか……。

幽美狐
幽美狐

将来、AIが発達して、人間の仕事を奪っていくって話があるわ。だから、失業者の生活を保障するため、国が国民に一定額のお金を定期的・継続的に配るベーシック・インカムについても議論されてるの。でも、人間が働かずに何不自由なく生活できるようになったら、UNIVERSE25のネズミと同じ運命をたどるんじゃないかしら?

狸雄
狸雄

理想郷って、いったい何なんだろう? 簡単に結論が出そうにもないね。

コメント

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