俗世を離れた平和な理想郷を「桃源郷(とうげんきょう)」といいます。
16世紀のイギリスでは、思想家のトマス・モアが著書『ユートピア』を出版し、その中で完璧な社会主義国家を描きました。また、古今東西の宗教では、生前の善行を評価された者が死後に住む場所として、苦しみのない天国や極楽などが語り継がれてきました。近年、AI(人工知能)による管理社会がユートピアと考えられることもあります。
これらの理想郷とは異なるのが桃源郷です。その元ネタは、4~5世紀に活躍した文学者、陶淵明(とうえんめい)の創作物『桃花源記(とうかげんのき)』です。
今回は、高校の定期テストでしばしば出題される『桃花源記』を解説します。高校生の皆さんは、漢文を勉強しながら、「理想郷とは何なのか?」を考えましょう。
猟師が不思議な桃の林にたどり着く
【問題1】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
晉太元中、武陵人、捕魚為業。緣溪行、①忘路之遠近。A忽逢桃花林。夾岸数百步、中無②雜樹、芳草鮮美、落英繽紛。漁人B甚異③之、C復前行、④欲窮其林。林尽水源、D便得一山。
問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。また、それぞれの意味も答えなさい。
問2. 下線部①をわかりやすく現代語訳しなさい。
問3. 下線部②の意味を答えなさい。
問4. 下線部③の内容を五十字以内で説明しなさい。
問5. 下線部④は「其の林を窮めんと欲す」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。
船で川を進んでいた漁師は、船で川を進んでいるうちに、美しい桃の林を見つけました。その林の奥には山がありました。
1. 漢字の読みと意味を答える問題
問1の答えは「A(読み)たちまち (意味)急に B(読み)はなはだ(意味)たいそう C(読み)また(意味)さらに D(読み)すなわち(意味)すぐに」です。
Aの「忽ち」は「たちまち」と読み、「急に・突然」を意味します。思いがけなくある自体が発生するさまを表します。同義語の「俄(にわ)かに」も一緒に覚えましょう。
Bの「甚だ」は「はなはだ」と読み、「たいそう」「非常に」を意味します。普通の程度をはるかに超えているさまを表します。
Cの「復た」は「また」と読み、「ふたたび」を意味します。「また」と読む漢字には「亦」「復」「又」の3種類あるので、それぞれの違いを覚えましょう。
漢字 | 意味 | 例文 | |
---|---|---|---|
亦 | やはり | 別の人が同じ動作を行う | 私は走った。亦、彼も走った。 |
復 | ふたたび | 同じ人が同じ動作を行う | 私は走った。その後、復た走った。 |
又 | さらに | 同じ人が別の動作を行う | 私は走った。又、歌った。 |
私は「モマタ・マタマタ・サラマタ」という呪文を教えられたわ。「も亦・また復・さら又」という意味ね。
Dの「便ち」は「すなわち」と読み、「すぐに」を意味します。歴史的仮名遣いでは「すなはち」と表記します。「すなわち」と読む漢字には以下のものがあるので、それぞれの違いを覚えましょう。
2. 現代語訳する問題
問2の答えは「(例)どれほどの道のりまで来たのかがわからなくなってしまった」です。「路の遠近を忘る」を直訳すれば「道のりが遠いのか近いのかを忘れた」です。つまり、自分がどのくらいの道のりを進んだのかがわからなくなったことを表します。
3. 熟語の意味を答える問題
問3の答えは「(例)桃以外の木」です。「雑樹」は「いろいろな木」という意味です。ここでは、桃の木以外の木々を表します。
4. 指示語の内容を答える問題
問4の答えは「(例)香りが良くて美しい桃の木だけが川の両側に並び、花びらが乱れ散っている場所に偶然たどり着いたこと。」です。直前の「忽逢桃花林~落英繽紛。」をまとめましょう。テスト対策としては、学校で習った通りに答えることが大切です。
5. 白文に返り点を施す問題
問5の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。
- 欲 … 左下にレ点
- 窮 … 左下に二点
- 林 … 左下に一点
返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。
「欲A」は願望を表し、「Aんと欲す」と書き下します。「ん」は意志の助動詞「ん」の終止形なので、Aは未然形の活用語です。「Aしようとする」「Aしたいと思う」と訳します。
書き下し文と現代語訳
穴を抜けた先に広がる平和な世界
【問題2】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
山有小口、①髣髴若有光。A便捨船、B従口入。初極狹、②纔通人。C復行数十步、豁然開朗。土地平曠、屋舍儼然。有良田・美池・桑竹之属。阡陌交通、鷄犬相聞。其中往来種作男女衣著、D悉如外人。③黄髮垂髫、並怡然自樂。
問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。
問2. 下線部①について、次の各問いに答えなさい。
- 「髣髴」の意味を答えなさい。
- 「若」と同じ意味の漢字を本文中から抜き出しなさい。
- 「若有光」を書き下しなさい。
問2. 下線部②をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。
問3. 下線部③の「黄髮」と「垂髫」の意味をそれぞれ答えなさい。
漁師は山の穴を進んでいくと、広くて明るい場所に出ました。そこにいる人々はとても楽しそうです。
1. 漢字の読みを答える問題
問1の答えは「A すなわち B より C また D ことごとく」です。
Bの「従」を「より」と読む場合、「より」は助詞なのでひらがなで書き下します。助詞の「より」と読む他の漢字には「自」「由」があります。
Dの「悉」は「ことごとく」と読み、「すべて」「みな」を意味します。同じ意味の熟語で「悉皆(しっかい)」を覚えておきましょう。
2.1. 熟語の意味を答える問題
問2の1の答えは「かすかに・ぼんやりと」です。
形容詞「髣髴(ほうふつ)たり」は、今回のように「かすかに・ぼんやりと」という意味の他、「ありありと想像するさま」を表すこともあります。「彷彿」も同じ読み・意味の熟語です。
2.2. 句法に関する問題
問2の2の答えは「如」です。下線部Dの直後の一字を抜き出しましょう。
問2の2の「若」「如」はどちらも「ごとし」と読みます。「ごとし」は比況・例示の助動詞なのでひらがなで書き下します。意味は「~のようだ」です。
2.3. 白文を書き下し文にする問題
問2の3の答えは「光有るがごとし」です。「ごとし」は比況・例示の助動詞なのでひらがなで書き下します。
3. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
問3の答えは「わずかにひとをつうずるのみ」です。
「纔(わづかに)」は限定の句法で、「纔かに~のみ」と送り仮名を付けます。意味は「ただ~だけだ」です。「のみ」には体言や活用語の連体形などが接続します。そのため、「通」は連体形の「通(つう)ずる」とします。
また、「通人」は「人」が目的語なので、「人が」ではなく、「人を」としましょう。
4. 熟語の意味を答える問題
問4の答えは「(黄髮)髪の黄色くなった老人 (垂髫)おさげ髪の子供」です。
書き下し文と現代語訳
外とは隔絶された村人たちの話
【問題3】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
見漁人、A乃大驚、①問所従來。B具答之。C便要還家、設酒殺鷄作食。村中聞有②此人、咸来問訊。自云、「先世避秦時乱、率妻子・邑人、来此絶境、③不復出焉。D遂与外人間隔。」問、「④今是何世。」乃⑤不知有漢、⑥無論魏晋。此人一一為具言所聞。⑦皆歎惋。余人E各復延至其家、皆出酒食。停数日、辞去。此中人語云、「⑧不足為外人道也。」
問1. 下線部A~Eの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。
問2. 下線部①は「従りて来たる所を問ふ」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。
問3. 下線部②を具体的に表す語を本文中から抜き出しなさい。
問4. 下線部③を現代語訳しなさい。
問5. 下線部④をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。
問6. 下線部⑤は「漢があったことを知らず」と訳します。この訳に従って訓点を施しなさい。
問7. 下線部⑥の意味をわかりやすく説明しなさい。
問8. 下線部⑧と同じ意味の漢字を本文中から抜き出しなさい。
問9. 下線部⑧について、次の各問いに答えなさい。
- 書き下しなさい。
- わかりやすく現代語訳しなさい。
- 村人がこのように言った理由を四十字以内で説明しなさい。
漁師は村人たちから歓迎され、村に関する話を聞く一方で、自分が知っていることを伝えました。漁師がたどり着いた村は外から隔絶していることが明らかとなります。
1. 漢字の読みを答える問題
問1の答えは「A すなわち B つぶさに C すなわち D ついに E おのおの」です。
Bの「具」は「つぶさに」と読み、「くわしく」を意味します。同じ意味の「つまびらかに」は「詳らかに」「審らかに」と漢字表記するので、一緒に覚えましょう。
Dの「遂」は「ついに」と読み、「結局・とうとう」を意味します。他に「ついに」と読む漢字に「終」「竟」があります。
Eの「各」は「おのおの」と読み、「それぞれ」を意味します。
2. 白文に返り点を施す問題
問2の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。
- 問 … 左下にレ点
- 所 … 左下に二点
- 來 … 左下に一点
返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。
3. 指示語の内容を答える問題
問3の答えは「漁人」です。本文の冒頭から抜き出します。
4. 現代語訳する問題
問4の答えは「二度とは外に出なかった」です。
「不復~」は「復(ま)た~ず」と書き下し、「(少なくとも一度は~したことがあるが)二度とは~しない」という意味の部分否定を表します。「復不~」も「復た~ず」と書き下しますが、こちらは「一度も~しない」という全部否定です。「不復~」と「復不~」は意味が異なるので注意しましょう。
また、「焉」は置き字なので、書き下し文に書かず、訳すこともありません。
たとえば、「そのお店に行って、不愉快な思いをさせられたから、もう二度と行かない」という場合は「不復行其店」だけど、「そのお店は怪しいから、一度も行ったことがない」という場合は「復不行其店」よ。
5. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
問5の答えは「いまはこれいずれのよぞ」です。「何」は歴史的仮名遣いで「いづれ」ですが、現代仮名遣いでは「いずれ」になります。
6. 白文に訓点を施す問題
問6の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。
- 不 … 左下にレ点
- 知 … 右下に「ラ」、左下にレ点
- 有 … 右下に「ルヲ」、左下にレ点
助動詞「ず」は「不」のひらがな表記なので、送り仮名にはなりません。
7. 意味をわかりやすく説明する問題
問7の答えは「(例)村人が魏や晋を知らないのは言うまでもない」です。
「無論(論無し)」は「言うまでもない」という意味ですが、「どのようなことが言うまでもないのか?」を書く必要があります。村人は秦の時代に村に逃げて来て、二度と外に出なかったため、秦の後の王朝である漢を知りませんでした。そうであれば、漢の後の王朝である魏や晋を知らないのは当然だと考えられます。
8. 同じ意味の漢字を抜き出す問題
問8の答えは「咸」です。「咸」を「みな」と読む場合、「皆」と同じ意味になります。下線部②の直後から抜き出しましょう。
9.1. 白文を書き下し文にする問題
問9の1の答えは「外人の為に道ふに足らざるなり」です。
「道」には「いう(言う)」の意味があります。「報道」の「道」が「いう」の意味です。
「也」は置き字として読まない場合もありますが、今回は教科書に準拠して助動詞「なり」としてひらがな表記します。「なり」は連体形接続なので、「不」は打消の助動詞「ず」の連体形「ざる」になります。
9.2. 現代語訳する問題
問9の2の答えは「(例)この村について外の人たちには言うほどのことではありませんので、言わないでください」です。
問題文に「わかりやすく」という指示があるので、「何を言うのか?」「『言うほどのことではない』とはどういう意味か?」を考えて言葉を補いましょう。
9.3. 理由を説明する問題
問9の3の答えは「(例)外の人に村の存在を知られることで、現在の平穏な生活を乱されたくないから。」です。
下線部⑧から「外の人に村の存在を知られたくない」ことがわかります。さらに、その理由を本文に即して考えます。そもそもこの村は、戦乱を避けたい人々が集ってできた村です。つまり、村人たちは平穏な生活を望んでいると考えられます。これらを字数内にまとめましょう。
桃源郷には二度とたどり着けなかった
【問題4】次の文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
既出、得其船、A便扶向路、①処処誌之。及郡下詣太守、説B如此。②太守即遣人隨其往。尋向所誌、C遂迷、(X)。南陽劉子驥、高尚士也。聞③之、欣然規往。④未果。D尋病終。後遂⑤無問津者。
問1. 下線部A~Dの漢字の読みを、送り仮名も含めて、現代仮名遣い・ひらがなで答えなさい。
問2. 下線部①の意味をわかりやすく説明しなさい。
問3. 下線部②について、次の各問いに答えなさい。
- 訓点を施しなさい。
- 「其」の内容を明らかにして現代語訳しなさい。
問4. (X)には「二度と道を見つけられなかった」という意味の白文が入ります。この意味に従って「復・路・得・不」の四字を並べ替えなさい。
問5. 下線部③の内容を四十字以内で説明しなさい。
問6. 下線部④をすべて現代仮名遣い・ひらがなで書き下しなさい。
問7. 下線部⑤は「津を問ふ者無し」と書き下します。これに従って返り点を施しなさい。
問8. 本文の作者名を答えなさい。
問9. 高校生の3人は、『桃花源記』で描かれる村について話し合いました。【問題1】から【問題4】の本文をもとにして述べられた意見として、適切でないものを次の中から2つ選び、記号で答えなさい。
ア 外の世界とは隔絶した村だから、村人たちは田を耕したり、鶏を飼ったりして、自給自足の生活をしているみたいだ。
イ 村人たちが漁師の話を聞きたがったのは、外の世界に興味があって、いつか村を出たいと考えているからだと思うの。
ウ 村人全員が村の現状に満足していることは、子供から老人まで楽しそうにしている様子からもよくわかるわね。
エ 村人たちは、戦乱を避けて平和に暮らしたいという先祖の思いを受け継いで、この先もずっと同じ生活を続けていくんだろうな。
オ 漁師は偶然村にたどり着いたけれど、何らかの目的を持って村を探しても、絶対にたどり着けないのよ。
カ 劉子驥のような志の高い人が諦めずに探し続ければ、いつか村を訪れて、村人たちから歓迎されるでしょうね。
村を出た漁師は、村人との約束を破って、村の存在を太守に報告しました。しかし、村にたどり着いた者は誰もいませんでした。
1. 漢字の読みを答える問題
問1の答えは「A すなわち B かくのごとし C ついに D ついで」です。
Bの「如此」について、「如」が比況・例示の助動詞なので、「ごとし」とひらがなで書き下します。「此くのごとし」で「このようである」という意味です。
Dの「尋」は「ついで」と読み、「それから間もなく・引き続いて」を意味します。「ついで」の漢字表記は他に「次いで」があります。下線部②の「尋向所誌」の「尋」は「たずねる」という意味なので、Dの「尋」と区別しましょう。
2. 意味をわかりやすく説明する問題
問2の答えは「(例)もと来た道のところどころに、村までの道順がわかるように目印をつけた」です。
「処処」は「ところどころ」という意味です。具体的にどこなのかを明らかにしましょう。
「誌之」の「誌」は「しるす」と読み、ここでは「印す=目印をつける」の意味です。「之」の具体的な内容を明らかにしましょう。
3.1. 白文に訓点を施す問題
問3の1の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。
- 即 … 右下に「チ」
- 遣 … 右下に「ム」、左下に二点
- 人 … 右下に「ヲシテ」
- 隨 … 右下に「ヒテ」、左下にレ点
- 其 … 右下に「レニ」
- 往 … 右下に「カ」、左下に一点
「遣AB」は使役の句法で、「AをしてBしむ」と書き下します。「しむ」は助動詞なのでひらがな表記です。また、「しむ」を表す漢字には「使・令・教・遣・俾」があります。「しむ」が未然形接続なので、Bは活用語の未然形です。意味は「AにBさせる」です。「AがBさせる」ではないので注意しましょう。
教科書によって訓点の施し方が異なることがあります。テスト対策としては、教科書通りに覚えてください。
3.2. 指示語の内容を明らかにして現代語訳する問題
問3の2の答えは「(例)太守はすぐ人に漁師の後をついて行かせた」です。
「太守」が主語なので「太守は」とします。「即」は「すぐに」という意味です。
「遣人隨其往」が使役なので「人に~行かせた」と訳します。「其」が「漁師」であることを明らかにしましょう。
4. 漢字を並べかえる問題
問4の答えは「不復得路」です。
「二度と~しなかった」は部分否定なので、「不復~」の形を作ります。さらに、「道を見つける」という意味にするには、「路」が「得」の目的語になるので、「得路」の語順です。
5. 指示語の内容を答える問題
問5の答えは「(例)太守が漁師の報告を受けて村を探させたが、村への道を見つけられなかったという話。」です。直前の「及郡下~(X)」の内容を指定字数内にまとめましょう。
6. 白文をひらがなの書き下し文にする問題
問6の答えは「いまだはたさず」です。
「未」は再読文字で、「いまだ~ず」と読みます。打消の助動詞「ず」は未然形接続なので、「果」は未然形の「果たさ」とします。
7. 白文に返り点を施す問題
問7の答えはここをクリックしてください(画像が表示されます)。
- 無 … 左下に二点
- 問 … 左下にレ点
- 者 … 左下に一点
返り点だけでいいので、送り仮名は書かないようにしましょう。
8. 作者名を答える問題
問8の答えは「陶淵明(とうえんめい)」もしくは「陶潜(とうせん)」です。
9. 本文をもとにした話し合いの問題
問9の答えはイ・カです。
生徒たちが本文をもとに話し合いをするという設定で、本文内容や、本文から推測できることの正誤を判断する問題が出ることがあります。本文の記述と照らし合わせて解きましょう。
イの「(村人たちが)いつか村を出たいと考えている」という記述は本文にありません。また、村人が「外の人に村の存在を教えないでほしい」と言っている(【問題3】問9)ことから、外の世界との関係を拒絶していることがわかります。
オとカは矛盾する内容なので、どちらかが誤りです。【問題4】で、劉子驥も村に行けなかったことを確認できれば、カが誤りだと判断できます。
書き下し文と現代語訳
日本の隠れ里(かくれざと)も、『桃花源記』とほとんど同じ言い伝えだよね。
山で迷った猟師は隠れ里に偶然たどり着き、住人から歓迎されて幸せな日々を送った。帰宅後、再び隠れ里を訪ねようと思っても、隠れ里を見つけられなかった。確かに『桃花源記』そっくりだわ。平家の落人(おちうど)伝説とも混ざって、いかにもリアルな設定で語られることもあるわ。
民俗学者・柳田國男の『遠野物語』で迷い家(まよいが)の話を読んだことがあるよ。迷い家は山の中にある幻の家で、そこを訪れた人に経済的な豊かさをもたらすんだって。これも隠れ里の一種だよね。おいらも隠れ里に住みたいなあ。
隠れ里は、来訪者には至れり尽くせりだけど、住むとなったら普通に働かなきゃいけないんじゃないの? 『桃花源記』でも、耕作してる男女の姿が描かれてるわ。神様が永遠に何でも与えてくれる天国とは違うのよ。
働くのは嫌だなあ。おいら、三食昼寝付きでゴロゴロしていたいんだよね。働いたら負けだと思うんだ。
あんたの考えは自宅警備員(ニート)と同じだわ。気持ちはわからなくもないけど、働かないことが本当に幸せなのかしら?
幸せに決まってるよ!
ふーん……。ところで、1960~1972年に動物行動学者のジョン・B・カルホーンが行った「UNIVERSE25(ユニバース25)」という実験を知ってる?
どんな実験なの?
簡単に言うと、ネズミを楽園で飼育する実験ね。この楽園には、安全な住居があって、水も食料も無限に与えられ、病気や天敵からも守ってもらえるの。ネズミにとっては何不自由ない快適な空間ってわけ。
うわあ、うらやましい! ネズミたちはニートになっちゃうじゃん!
そうよ。ニートになったネズミたちは争わなくなったんだけど、子作りもしなくなるの。だから、高齢化が進んで、最後には全滅。詳しくはwebムーで確認してね。
う~ん、ネズミの楽園は、ユートピアどころかディズニーランド……じゃなくて、ディストピアだったのか……。
将来、AIが発達して、人間の仕事を奪っていくって話があるわ。だから、失業者の生活を保障するため、国が国民に一定額のお金を定期的・継続的に配るベーシック・インカムについても議論されてるの。でも、人間が働かずに何不自由なく生活できるようになったら、UNIVERSE25のネズミと同じ運命をたどるんじゃないかしら?
理想郷って、いったい何なんだろう? 簡単に結論が出そうにもないね。
コメント