高校入試の国語でよく出る古文が江戸時代初期の『醒睡笑』です。「睡(ねむ)りを醒(さ)まして笑う」という名前からもわかる通り、バカバカしい笑い話を集めた本です。
そんな『醒睡笑』の中から、オカルト要素のある作品を紹介します。高校受験生の古文対策に役立ててもらえれば幸いです。
今回は、読者の皆さんが大好きな(?)貧乏神のお話です。以下が全文の引用です。
貧乏神とわりなき知音(ちいん)の者ありしが、ちと酒にゑひて壁にもたれゐ、いゐねぶりしけるみぎり、肩から物が何とも知れずどうと落ちけり。目をさまし手を合はせ、「やれやれ嬉しいことや。この年月肩にゐたる貧乏殿が、今日といふ今日落ちて、わが身を離れたよ」と合点せしが、誰(たれ)言ふとも知れず、「あまり多く寄り合ひ、そちがいねぶりする間、油びやうしを踏むとてとりはづし、一人落ちにき。いまだ果てはないぞ」と言へり。何と心に祝うても笑止や。
雄長老(ゆうちやうらう)、
大きなる柿団扇(かきうちわ)がな二三本貧乏神をあふぎいなさん
也足(やそく)の判、「柿団扇は貧乏神のつくといへば、二三本にてあふぐこといかが。弥増(いやま)しに長居(ながゐ)すべくや」。
私が問題を出すから、狸雄はちゃんと答えてね!
へいへい、わかりましたよー。
貧乏神が肩から落ちたと思ったら……
貧乏神とわりなき知音の者ありしが、ちと酒に①ゑひて壁にもたれゐ、いゐねぶりしけるみぎり、肩から物が何とも知れずどうと落ちけり。
下線部①を現代仮名遣いに直しなさい。
「ゑ」は「え」と読むんだよね。言葉の最初と助詞以外の「はひふへほ」は「わいうえお」となるはず。だから、「えいて」が答えだ。
貧乏神に取りつかれた人が酒に酔って居眠りしていたら、肩から何かが落ちました。
高校入試レベルだと、細かい古語の意味や文法は問われません。おおまかに意味をとらえられれば問題ありません。
目をさまし手を合はせ、「やれやれ②嬉しいことや。この年月肩にゐたる貧乏殿が、今日といふ今日落ちて、わが身を離れたよ」と合点せしが、
下線部②について、何が嬉しいのかを二十字以内で説明しなさい。
この後の部分を訳せばいいんだよね。答えは「貧乏神が肩から落ちて体から離れたこと。」だ。
目を覚ました人が「貧乏神が落ちた」と思って喜びます。しかし、この後に衝撃の事実が――。
貧乏神は一人だけじゃなかった!
誰言ふとも知れず、「あまり多く寄り合ひ、そちがいねぶりする間、油びやうしを踏むとてとりはづし、一人落ちにき。③いまだ果てはないぞ」と言へり。何と心に祝うても笑止や。
下線部③の意味を次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア 果てしなく酔い続けること。
イ もうじき命が果ててしまうこと。
ウ 貧乏神が他にもたくさんいること。
エ 貧乏神から解放されて裕福になること。
ウかな?
どうしてウを選んだの?
「あまり多く寄り合ひ」「一人落ちにき」から、他にも貧乏神がいると考えられるからだよ。
ウで正解よ!
貧乏神から解放されたと思って喜んだのもつかの間、他にもたくさん貧乏神が肩に取りついていることが判明しました。
「油びやうし」は「油拍子」と漢字表記します。油をまいた上で足拍子をとるとすべりやすいことから、「危なげな足どり」という意味です。
貧乏神を柿団扇であおいだらどうなる?
大きなる柿団扇がな二三本貧乏神をあふぎいなさん
也足の判、「柿団扇は貧乏神のつくといへば、二三本にてあふぐこといかが。弥増しに長居すべくや」。
最後の問題よ。雄長老の狂歌と、これに対する也足の評価として、最も適切なものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア 柿団扇であおいで貧乏神を追い払おうという狂歌に対して、也足はその効果に肯定的な評価をした。
イ 柿団扇であおいで貧乏神を追い払おうという狂歌に対して、也足はその効果に否定的な評価をした。
ウ 柿団扇であおぐのをやめて貧乏神を追い払おうという狂歌に対して、也足はその効果に肯定的な評価をした。
エ 柿団扇であおぐのをやめて貧乏神を追い払おうという狂歌に対して、也足はその効果に否定的な評価をした。
イだね!
正解! 解説はこの後を読んでね。
【口語訳】雄長老(の狂歌に)、
大きな柿団扇か何か二、三本で貧乏神をあおいで立ち去らせよう(とある。)
也足の言葉は、「柿団扇は貧乏神がつくものだというので、二、三本であおぐことはどうだろうか。ますます長居するのではないか」(だった)。
まずは雄長老の狂歌を紹介しています。「大きな柿団扇二、三本であおいで貧乏神を追い払おう」という意味の狂歌です。
雄長老は安土桃山時代の禅僧で、笑いや風刺に満ちた『詠百首狂歌』の作者として有名です。
雄長老の狂歌に対して、也足は「柿団扇は貧乏神がつくものだから、そんなものを二、三本使ってあおいだら、貧乏神が長居する」と言ったそうです。
也足は雄長老と同時代の歌人で、雄長老に頼まれて『詠百首狂歌』を批評しました。
柿団扇は、柿渋を塗ったうちわです。「渋団扇」とも呼ばれます。この柿団扇には「貧乏神がつく」という言い伝えがありました。
雄長老が「柿団扇であおいで貧乏神を追い払おう」とボケて、也足が「そんなことをしたら、逆に貧乏神が長居するぞ」とツッコミを入れているわけです。
コメント