多くの男子が好む球技の代表といえばサッカーです。一方、平安時代の男性貴族が好んだ球技は「蹴鞠(けまり)」でした。
蹴鞠では、8人の貴族が輪になって鞠を一定の高さまで蹴り上げ、地面に落とさずに蹴り続けます。サッカーに似ていますが、勝敗を競うわけではなく、蹴りやすい鞠を相手に渡すことが大切にされました。
そんな蹴鞠の達人で、「蹴聖(しゅうせい)」と呼ばれるほどだったのが、平安時代後期に活躍した藤原成通(ふじわらのなりみち)です。鎌倉時代中期の説話集『十訓抄(じっきんしょう)』から、成通の身に起こった不思議な出来事を紹介します。
蹴鞠が大好きな藤原成通の前に現れたのは?
古文が必要な高校受験生や、古文を習いたての高校1年生は、次の【問題】にチャレンジしてみましょう。
【問題】次の文章を読んで、後の問いに答えなさい。
成通卿、①年ごろ鞠を好み給ひけり。②其の徳やいたりにけん、ある年の春、鞠の精、かかりの柳の枝にあらはれて見えけり。みづらゆひたる小児、十ニ三ばかりにて、青色の唐装束して、③いみじううつくしげにぞありける。
何事をも始むとならば、底を極めて、④かやうのしるしをあらはすばかりこそ、せまほしけれど、⑤かかるためし、いとありがたし。されば、「学ぶ者は牛毛のごとく、得る者は麟角のごとし」ともあり。また、「する事かたきにあらず、よくする事のかたきなり」ともいへる。⑥「げにも」と思ゆるためしありけり。
※かかり…蹴鞠の場所。 ※みづらゆひたる…みづらに髪を結った。みづらは子供の髪型。 ※しるし…前兆。 ※麟角…麒麟(想像上の動物)の角。とてもめずらしいことのたとえ。
問1. 下線部①の意味を答えなさい。
問2. 下線部②の現代語訳として最も適切なものを次の中から一つ選び、記号で答えなさい。
ア その徳が極まってしまったので
イ その徳が極まろうとしていたので
ウ その徳が極まったのだろうか
エ その徳が極まらなかったのだろうか
問3. 下線部③を現代語訳しなさい。
問4. 下線部④を現代仮名遣いに直しなさい。
問5. 下線部⑤について、次の問いに答えなさい。
- 「かかるためし」は「このような例」という意味です。この例の内容を、本文に即して二十字以内で説明しなさい。
- 「いとありがたし」を現代語訳しなさい。
問6. 下線部⑥は「『もっともだ』と思われる例があった」という意味です。筆者が「もっともだ」と思ったことを、本文に即して四十字以内で説明しなさい。
蹴鞠が大好きな藤原成通の前に、子供の姿をした鞠の精が現れました。蹴鞠の精が成通に何をしたのかは一切書かれていませんが、筆者はこの出来事から教訓を述べています。その教訓を読み取れましたか?
蹴鞠の精が現れたことから得られる教訓
【問題】の各問いを解説しながら、定期テストや入試に出やすい問題のパターンを紹介します。
私が高校生向けの解説します。文法などの細かい知識を一緒に確認しましょう。
1. 古語の意味を答える問題
問1の答えは「長年」です。
現代語の「年ごろ」は、「年ごろの娘」のように使い、「一人前の年齢、妙齢」を意味します。一方、古語の「年ごろ」は現代語と異なる意味の方を問われやすいので、しっかり覚えましょう。「年ごろ」に限らず、古語と現代語で意味の異なる言葉はよく問題になります。
「蹴る」は、古文に出てくる唯一の(カ行)下一段活用動詞です。活用は次の活用表の通りです。
基本形 | 語幹 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
蹴る | (け) | け | け | ける | ける | けれ | けよ |
2. 現代語訳する問題
問2の答えはウです。
細かく品詞分解して現代語訳するためには助動詞の知識が必要です。しかし、下線部②の「や」が疑問の係助詞であることを知っていれば、ウかエに絞れます。さらに、「けん」に打消の意味はないことから、最終的にウが答えだとわかります。
現代語だと、「食わん=食べない」のように、「ん」に打消の意味があります。一方、古語の「ん(む)」は「~だろう」という推量で、打消の意味はありません。「けん(けむ)」は「~しただろう」という過去推量を、「らん(らむ)」は「今ごろは~しているだろう」という現在推量をそれぞれ表すことも覚えておくといいでしょう。
「其の徳やいたりにけん」は「其/の/徳/や/いたり/に/けん」と品詞分解します。係助詞「や」と過去推量の助動詞「けん」の連体形「けん」で、「~したのだろうか」という疑問を表します。また、「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形で、「にけん」で「きっと~ただろう」という意味です。「いたり」はラ行四段活用動詞「いたる」の連用形で、「極まる、達する」という意味です。
3. 現代語訳する問題
問3の答えは「(例)たいそうかわいらしい様子でいた」です。
問3は問2と違って自分で訳さなければならないので、きちんと品詞分解して、各単語の意味を訳に反映させていかなければなりません。「いみじううつくしげにぞありける」を品詞分解すると、「いみじう/うつくしげに/ぞ/あり/ける」です。
「いみじう」は形容詞「いみじ」の連用形です。「いみじ」は、並外れている(程度がはなはだしい)様子を表します。良い意味だと「優れている、すばらしい、立派だ」になり、悪い意味だと「ひどい、恐ろしい」になります。特に良い悪いを考えなくていい場合は「たいそう」などと訳しておけば十分です。
「いみじう」を現代仮名遣いに直すと、「いみじう → imijiu → imijyū → イミジュー → いみじゅう」となるんだよ。
「うつくしげに」は形容動詞「うつくしげなり」の連用形です。「うつくしげなり」は、形容詞「うつくし」の語幹に「げなり」がくっついた形容動詞で、「かわいらしい様子だ」という意味です。
係助詞「ぞ」と過去の助動詞「けり」の連体形「ける」で係り結びです。「ぞ+連体形」は強意なので、訳を工夫する必要はなく、「けり」の訳の「~た」だけを反映させれば十分です。
形容詞「うつくし」は「かわいらしい」という意味です。これに対して、形容動詞「うつくしげなり」はかわいらしさが一段劣ります。現代語でも「楽しい」と「楽しげだ(楽しそうな様子だ)」がありますが、同じように考えるといいでしょう。
4. 歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直す問題
問4の答えは「かよう」です。
「かやう」をローマ字表記すると、 kayau で母音(ぼいん)の連続 au があります。 au を ō と読んで「かやう → kayau → kayō → カヨー → かよう」です。母音の長音化のルールがわからない受験生は以下の記事で復習してください。
5.1. 本文の読解に関する問題
問5の1の答えは「(例)蹴鞠が好きな成通が鞠の精を見たこと。」です。
第1段落「成通卿、~ありける。」の内容を字数内にまとめます。
5.2. 現代語訳する問題
問5の2の答えは「(例)とてもめずらしい」です。
「いと」は「とても、非常に」という意味の副詞です。また、「ありがたし」は「めずらしい、めったにない」という意味の形容詞です。現代語の「ありがたい」と異なる意味を問われることが多いので注意しましょう。
6. 本文の読解に関する問題
問6の答えは「(例)何をする場合でも、することが難しいのではなく、よくすることが難しいということ。」です。
傍線部⑥の前の文の「する事かたきにあらず、よくする事のかたきなり」を訳して字数内にまとめましょう。「学ぶ者は~ごとし」も同内容ですが、こちらは比喩なので、より直接的に書かれている「する事~かたきなり」を訳します。
「かたき」は形容詞「かたし(難し)」の連体形で、「難しい、困難だ」という意味です。現代語でも「言いがたい」は「言うのが難しい」という意味ですが、この「がたい」のもとになっているのが「かたし」です。
『十訓抄』の教訓を受験勉強に活かそう!
【現代語訳】成通卿は、長年蹴鞠を好んでいらっしゃった。その徳が極まったのだろうか、ある年の春、蹴鞠の精が、蹴鞠の場所の柳の枝に現れた。みずらを結った子供で、年が十ニ、三歳くらいで、青い色の唐装束を着て、たいそうかわいらしい様子でいた。
何事も好むのであれば、奥義を極めて、このような前兆を現すまで、(努力)したいものだが、このような例は、とてもめずらしい。だから、「学ぶ者は牛の毛のよう(に多いの)だが、優れる者は麒麟の角のようにめずらしい」ともある。また、「することが難しいのではなく、よくすることが難しい」とも言った。「もっともだ」と思われる例があった。
『十訓抄』は「教訓説話集」といわれるだけあって、筆者の解説が説教臭いよね。今回の話も、藤原成通が鞠の精を見たってだけなのに、筆者が勝手に話を膨らませてると思うんだ。
でも、「することが難しいのではなく、よくすることが難しい」はその通りだと思うわ。受験生のあんたも肝に銘じた方がいいんじゃない? 勉強することが難しいのではなく、結果が出るように勉強することが難しいのよ。
グサッ! 幽美姉(ゆみねえ)は厳しいなあ……。
自分で「グサッ!」とか言わないで。そもそも私は厳しくないわ。あんたがダメダメなだけ。「勉強している」って言いながら机に向かっても、1時間のうち10分はボケーッと問題を眺めて、10分は暗記モノを思い出そうと考え込んで、10分は教科書を読んでるだけで、さらに10分は……。
幽美姉、それ以上は言わないで! おいらがまちがってたよ。これからは、結果が出るように勉強するよ!
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