意識を取り戻したカズが最初に見たのは、かっこいいお兄さんときれいなお姉さんの顔でした。
二人は心配そうにカズの顔をのぞき込んでいました。しかし、カズが目を覚ますと、二人とも嬉しそうに微笑みました。
カズは、自分の身に何が起こったのか、まったくわかりません。塾からの帰宅途中、車にはねられて……。気づいたら、薄暗くてかび臭いこの場所にいたのです。(詳しくはこちら)
そんなカズにお兄さんとお姉さんは自己紹介をしました。お兄さんは戦士のシグマで、お姉さんは魔法使いのアイ(しかもエルフ!)です。二人は他の仲間と一緒にダンジョンを探索しているとき、トラップに引っかかって、この部屋に閉じ込められてしまったといいます。そして、倒れているカズを発見したそうです。
――ダンジョン? トラップ?
カズは夢を見ているのかと思いましたが、違いました。シグマとアイの説明によると、カズが今いるのは「インテグラル界」と呼ばれる世界です。どうやらカズは異世界に転生してしまったようです。
いろいろツッコミどころ満載の展開ですが、とりあえずこの部屋から出なければなりません。しかし、出たくても出られない理由が……。
この部屋の出入り口は向こうにあるんだけど、扉に算数魔法がかけられてるんだ。
算数魔法?
扉に【問題】が刻まれていて、これを解かないと扉が開かないの。でも、私たちには解けなくて……。もしかしてカズなら解けるんじゃない?
えっ、僕が? 解けないと思うけど……。でも、その【問題】を見てみるよ。
つるかめ算とはどのような特殊算か?
カズは、扉に刻まれた【問題】を見ます。カズが異世界の文字をスラスラ読めるのはお約束です。
コカトリス? バジリスク? どんな生き物なんだろう? でも、この【問題】はつるかめ算だ!
カズの言う「つるかめ算」とは、つるとかめの数の和と足の数の和から、つるやかめの数を求める問題です。
つるかめ算といっても、つるとかめに限らず、50円切手と70円切手、分速80mで歩く太郎くんと分速60mで歩く花子さんなど、1あたりの量(足の数や単価、速さなど)が異なる2種類のものの数を求める文章題でよく使います。たとえば、仕事算でつるかめ算を使う問題については、以下の記事を参考にしてください。
つるかめ算では仮定が大切です。「すべてをかめ(つる)と仮定すると」からスタートして、足の数の和(足し算の結果)を考えます。
つるかめ算を表で解く
【問題】では、コカトリスとバジリスクという生き物が登場します。「すべてをバジリスク(コカトリス)と仮定すると」からスタートしましょう。このとき、足の数の和を表にしてみるとわかりやすいでしょう。
すべてをバジリスクと仮定する
すべてをバジリスクと仮定すると、足の数の和は8×78=624(本)です。ここで、バジリスク1匹をコカトリス1匹におきかえると、足の数の和が8-2=6(本)ずつ減っていきます。これを次の表にしました。□は、足の数の和が300本のときのバジリスクの数です。
バジリスクの足の数の和 | 624本 | 616本 | 608本 | … | 8×□本 |
---|---|---|---|---|---|
コカトリスの足の数の和 | 0本 | 2本 | 4本 | … | 2×(78-□)本 |
足の数の和 | 624本 | 618本 | 612本 | … | 300本 |
すべてをバジリスクと仮定したときの足の数の和と、【問題】で与えられた足の数の和の差(引き算の結果)は、624-300=324(本)です。この差は、324÷6=54(匹)のバジリスクをコカトリスにおきかえたために生じました。つまり、コカトリスは54匹です。
【問題】の解き方として、(8×78-300)÷(8-2)という式を見かけるよね。僕がここまでで説明したことを一行でまとめると、この式になるんだ。
すべてをコカトリスと仮定する
すべてをコカトリスと仮定すると、足の数の和は2×78=156(本)です。ここで、コカトリス1匹をバジリスク1匹におきかえると、足の数の和が8-2=6(本)ずつ増えていきます。これを次の表にしました。□は、足の数の和が300本のときのコカトリスの数です。
バジリスクの足の数の和 | 0本 | 8本 | 16本 | … | 8×(78-□)本 |
---|---|---|---|---|---|
コカトリスの足の数の和 | 156本 | 154本 | 152本 | … | 2×□本 |
足の数の和 | 156本 | 162本 | 168本 | … | 300本 |
すべてをコカトリスと仮定したときの足の数の和と、【問題】で与えられた足の数の和の差は、300-156=144(本)です。この差は、144÷6=24(匹)のコカトリスをバジリスクにおきかえたために生じました。つまり、バジリスクは24匹なので、コカトリスは78-24=54(匹)です。
つるかめ算を面積図で解く
つるかめ算の解き方を言葉や表で説明されてもよくわからない場合、面積図を描いてみることをおすすめします。
面積図では、縦を1匹の足の本数、横を生き物の数の和にすることで、(縦×横=)面積が足の本数の和になります。
すべてをバジリスクと仮定する
すべてをバジリスクと仮定すると、面積図は下の通りです。
左上の赤い四角形の面積は624-300=324になります。これが、すべてをバジリスクと仮定したときの足の数の和と、【問題】で与えられた足の数の和の差です。
この面積を縦の6本で割ると横の□匹を求められます。□=324÷6=54(匹)がコカトリスの数です。
すべてをコカトリスと仮定する
すべてをコカトリスと仮定すると、面積図は下の通りです。
右上の赤い四角形の面積は300-156=144になります。これが、すべてをコカトリスと仮定したときの足の数の和と、【問題】で与えられた足の数の和の差です。
この面積を縦の6本で割ると横の□匹を求められます。□=144÷6=24(匹)がバジリスクの数なので、コカトリスの頭数は78-24=54(匹)です。
カズが54匹って答えたら、扉が開いたぞ! すごい!
数字を1から順番に言っていったら、すぐ54になって、扉が開くんじゃない?
算数魔法は数字が合ってるだけではダメで、その数字を求める途中の考え方が正しくないと、まったく効果がないのよ。
途中の考え方が大事なんだね。塾でも同じことを言われたなぁ……。
バジリスクとコカトリスはどんな生き物か?
つるかめ算の解き方とは関係ありませんが、【問題】のバジリスクとコカトリスについて解説します。
バジリスクは中世ヨーロッパの伝承に登場する怪物です。名前は「小さな王」を意味するギリシア語に由来します。オスのニワトリの産んだ卵をヒキガエルやヘビが孵化させることで誕生するそうです。
バジリスクは猛毒を持っていて、息や視線で他の生物を死に至らしめる(もしくは石化させる)と恐れられました。この猛毒のせいで中東の一部地域が砂漠化したと言い伝えられるほどです。
バジリスクはもともとヘビの怪物でしたが、8本足のトカゲとして描かれることもありました。さらに、別の怪物であるコカトリスと混同されるようになりました。
コカトリスはニワトリとヘビが合体したような姿をしていて、バジリスクと同じく息や視線に猛毒があるといいます。
バジリスクが進化してコカトリスになるとか、バジリスクとコカトリスは雌雄の関係にあるとか、資料によっていろいろな説が紹介されています。
バジリスクもコカトリスもRPGではおなじみのモンスターです。毒や石化といった状態異常を引き起こす敵として、冒険者たちに襲いかかってきます。
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