高校2年生の幽美狐がいつになくニコニコしています。そんな幽美狐に話しかけるのは中学2年生の狸雄です。
今日の幽美姉(ゆみねえ)は随分ご機嫌だね。
わかる? ずっと欲しかったインテリアを買ってもらったの!
へえー。そのインテリアって何?
六地蔵よ!
えっ、ロク……ジゾウ……?
6体のお地蔵様よ。地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道の六道で苦しむ者たちを救ってくれる、ありがた~い菩薩が六地蔵なの。狸雄は知らないの?
知らない。というか、お地蔵様を部屋に飾るなんて、幽美姉、頭おかし……あっ、ゴメン!
何よ、あんた! そんなんだからモテないのよ! 大っ嫌い!
狸雄のせいで機嫌を損ねた幽美狐ですが、自宅に帰れば、愛しの六地蔵が待っています。そんな六地蔵の並べ方を通して、算数や数学でよく出る順列の問題を考えましょう。
六地蔵を一列に並べる順列は何通り?
【問題】幽美狐は六地蔵を部屋の中に一列に並べるつもりです。六地蔵はそれぞれ檀陀(だんだ)地蔵・宝珠(ほうじゅ)地蔵・宝印(ほういん)地蔵・持地(じじ)地蔵・除蓋障(じょがいしょう)地蔵・日光(にっこう)地蔵の6体で、姿かたちが異なります。
(1) すべての並べ方は何通りですか。
(2) 宝珠地蔵と宝印地蔵が両端に来る並べ方は何通りですか。
(3) 持地地蔵と除蓋障地蔵が隣り合う並べ方は何通りですか。
(4) 持地地蔵と除蓋障地蔵が隣り合わない並べ方は何通りですか。
(5) 檀陀地蔵と宝珠地蔵と宝印地蔵が隣り合う並べ方は何通りですか。
(6) 檀陀地蔵と宝珠地蔵と宝印地蔵が隣り合わない並べ方は何通りですか。
(7) 持地地蔵と除蓋障地蔵と日光地蔵がこの順番になる並べ方は何通りですか。
六地蔵はすべて異なるものなので、これらを一列に並べる並べ方は順列です。順列は並び順を考える場合の数です。
六地蔵の名前をいちいち書くのは面倒なので、檀陀地蔵・宝珠地蔵・宝印地蔵・持地地蔵・除蓋障地蔵・日光地蔵をそれぞれA・B・C・D・E・Fとします。このように、並べるものや人をわかりやすい記号にするのも場合の数のコツです。
【問題】は6つの異なるものを並べるのに樹形図を描くのは大変です。計算で解きましょう。
さまざまな並べ方をどう考える?
【問題】は、中学入試や大学入試でよく出る問題ばかりです。それぞれの考え方を紹介するので、しっかり理解しましょう。
(1) すべてを一列に並べる並べ方
六地蔵を並べる場所をアイウエオとします。
- アに並ぶのはA~Eの6体のうちの1体なので5通り。
- イに並ぶのは、アに並んだ1体を除いた5体のうちの1体なので5通り。
- ウに並ぶのは、アイに並んだ2体を除いた4体のうちの1体なので4通り。
- エに並ぶのは、アイウに並んだ3体を除いた3体のうちの1体なので3通り。
- オに並ぶのは、アイウエに並んだ4体を除いた2体のうちの1体なので2通り。
- カに並ぶのは、アイウエオに並んだ5体を除いた1体なので1通り。
したがって、6×5×4×3×2×1=720(通り)が答えです。
たとえば、アにAを置くとすると、イにはB~Eの5体のどれかを置くことになるわ。同じように考えると、アはA~Eの6通りで、それぞれの置き方に対して、イは5通りになるってこと。だから、積の法則を使って6×5なの。和の法則を使って6+5としちゃダメよ。ちなみに、(1)を階乗で表すと6!=6×5×4×3×2×1よ。
(2) 両端に来るものが決まっている並べ方
両端に来るもの(人)が決まっている並べ方の図を描きましょう。
BとCを△、他の地蔵を○とすると、△と○の並べ方は△○○○○△しかありません。
- BとCの並べ方は2×1=2(通り)。
- 他の地蔵の並べ方は4×3×2×1=24(通り)。
したがって、2×24=48(通り)が答えです。
(3) 2つが隣り合う並べ方
隣り合うもの(人)を1つ(1人)と考えましょう。
- 隣り合うDとEの並べ方は2通り。
- DとEを1体と考えて、5体の並べ方は5×4×3×2×1=120(通り)。
したがって、2×120=240(通り)が答えです。
(4) 2つが隣り合わない並べ方
余事象を使うのが簡単です。余事象とは、あることが起こる事象(できごと)に対して、あることが起こらない事象を意味します。
「DとEが隣り合わない並べ方=すべての並べ方-DとEが隣り合う並べ方」なので、(1)の答えから(3)の答えを引いて720-240=480(通り)が答えです。
(4)の別解(DとEを間に入れる解き方)
DとE以外の地蔵を○とすると、①○②○③○④○⑤の①~⑤から2か所を選んでDとEを並べます。
- DとEは①~⑤から2か所を選ぶので5×4=20(通り)。
- 他の地蔵は○に並べるので4×3×2×1=24(通り)です。
したがって、20×24=480(通り)が答えです。
DとEが①~⑤から2か所を選ぶのを5P2=5×4と表せるのよ、
(4)の別解(DとEの位置を先に決める解き方)
DとEを△、他の地蔵を○として、DとEの位置を先に決めてしまいます。
△○△○○○ △○○△○○ △○○○△○ △○○○○△
○△○△○○ ○△○○△○ ○△○○○△
○○△○△○ ○○△○○△
○○○△○△
△と○の並べ方はこれら10通りしかありません。
- DとEを△に並べる並べ方は2×1=2(通り)。
- 他の地蔵を○に並べる並べ方は4×3×2×1=24(通り)。
したがって、10×2×24=480(通り)が答えです。
(5) 3つが隣り合う並べ方
隣り合うもの(人)を1つ(1人)と考えましょう。
- 隣り合うAとBとCの並べ方は3×2×1=6(通り)。
- AとBとCを1体と考えて、4体の並べ方は4×3×2×1=24(通り)。
したがって、6×24=144(通り)が答えです。
(6) 3つが隣り合わない並べ方
(4)のように余事象を求めると、AとBとCのうち2体が隣り合う並べ方が残ってしまいます。そのため、余事象を使わず、AとBとCの位置を先に決めましょう。
AとBとCを△、他の地蔵を○とすると、△と○の並べ方は次の4通りです。
△○△○△○ △○○△○△ △○△○○△ ○△○△○△
- AとBとCを△に並べる並べ方は3×2×1=6(通り)。
- 他の地蔵を○に並べる並べ方は3×2×1=6(通り)。
したがって、4×6×6=144(通り)が答えです。
(6)の別解(余事象を使う解き方)
おすすめはしませんが、どうしても余事象を使いたいのなら、次のように解きます。
「AとBとCのすべてが隣り合わない並べ方=すべての並べ方-AとBとCのすべてが隣り合う並べ方」なので、(1)の答えから(5)の答えを引いて720-144=576(通り)です。
この576通りから、AとBとCのうち2体だけが隣り合う並べ方を引きます。
AとBとCを△、他の地蔵を○とすると、AとBとCのうち2体だけが隣り合う△と○の並べ方は次の6通りと、これらを左右反転させた6通りを合わせた12通りです。
△△○△○○ △△○○△○ △△○○○△
○△△○△○ ○△△○○△
○○△△○△
- AとBとCを△に並べる並べ方は3×2×1=6(通り)。
- 他の地蔵を○に並べる並べ方は3×2×1=6(通り)。
したがって、AとBとCのうち2体だけが隣り合う並べ方は12×6×6=432(通り)なので、AとBとCが隣り合わない並べ方は576-432=144(通り)です。
(7) 順番が決まっている並べ方
DとEとFの3体がこの順番で並ぶので、この3体の順番を考えなくていいことになります。
DとEとFの並べ方は3×2×1=6(通り)なので、(1)の答えをこの6通りで割ると、DとEとFの順番を固定できます。
したがって、720÷6=120(通り)が答えです。
(7)の別解(AとBとCの位置を選ぶ解き方)
6人が並ぶ場所を①②③④⑤⑥とします。
①~⑥の6か所から3か所を選んでAとBとCを並べるので、6×5×4=120(通り)です。
他の3か所にはDとEとFをこの順番で並べるので、120通りで終わりです。
①~⑥の6か所から3か所を選んでAとBとCを並べる並べ方は6P3=6×5×4ね。
六地蔵とはいったい何なのか?
仏教では、衆生(しゅじょう。迷いの世界に生きるものたち)が生まれ変わる6つの世界を「六道(ろくどう、りくどう)」といいます。そして、この生まれ変わりが輪廻転生(りんねてんしょう)です。
六道は地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人道・天道で、いずれも苦しみの世界です。人道は私たちの住む人間界ですが、地獄などよりはマシなだけで、さまざまな苦しみに満ちあふれています。また、幸せな世界である天道に生まれ変わっても、いつかは去らなければなりません。そのときの苦しみは「天人五衰(てんにんのごすい)」と呼ばれ、地獄の苦しみをも上回るそうです。
そんな六道すべてをめぐって衆生を救済するのが六地蔵です。墓地にある六地蔵には、「故人が輪廻転生の苦しみから解放され、極楽浄土へ生まれ変わってほしい」という願いが込められています。
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